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あれはそう、何の変哲もない、いつもの静かな夜でした。
「カチャ…」
寝室にいた僕はブラインドの下げられた窓の方から何かの音を感じました。
一緒にいた妻は気づいていないくらいの、本当にかすかな気配。
しかし僕はその違和感が気になり、ブラインドを上げるためのヒモに手を伸ばしました。
そして、何の警戒もなく、一片の心の準備もなく、ブラインドを上げたのです。
え? ブラックダイヤモンド? オニキス?黒真珠?
一見美しく見える「それ」は禍々しい黒い光を放ち、あまつさえ、動いていたのです。
「うわああああああああああああああああああああああ!!!!!」
僕は反射的に後ろに飛びのいていました。
「それ」は紛れもなく僕の寝室の窓にいる。
一瞬で日常の夜が血みどろの非日常に変わりました。
時間はありません。
逃したら、終わりです。
スーパーコンピュータが悲鳴を上げるレベルの自問自答を一瞬で処理し、僕はシンプルな答えを出しました。
「始末するっ!今、ここでっ!」
都合が悪くなった犯罪者の思考と同じ流れを辿る僕に、もはや余裕はありません。
一刻も早く始末する!
しかし、僕が行動しようとした次の瞬間、
ブシュアーーーーーーーーーーー!
目の前に霧が吹き込まれたのです。
その霧はブラックダイヤモンドを一気に飲み込み、僕の寝室を霧の都ロンドンへと作り替えました。
一体何が起こったんだ…。
霧が吹き込まれた後方を振り返ると、そこには妻が立っていました。
そう、寝室をロンドンに変えたのは僕の妻だったのです。
そしてさらに驚きました。
彼女の手には拳銃でもなく、警察手帳でもなく、「ゴキジェットプロ」が握られていたのです。
(ゴキジェットプロ…! 第二類医薬品…! めっちゃ強いやつやん!)
ロンドンを逃げ回る黒きジャック・ザ・リッパーは、文字通り「虫の息」となり、霧とガス灯の光に包まれながらその不憫な生涯を終えました。
町から危機は去ったのです。
「レストレード警部!」
僕は彼女のもとに駆け寄りました。
彼女の手際と装備の良さに僕は感動を禁じ得ません。
彼女は落ち着きながら僕に言いました。
「大丈夫?」
嗚呼、これほど心強いパートナーはいるでしょうか。
彼女の一言は興奮冷めやまぬ僕をやさしく包み込み、血みどろの非日常から僕を救い出してくれたのです。
僕はあの頃妻に抱いたときめきを感じながら、動かなくなった「それ」を処理し、窓を開け放ちました。
霧は晴れたのです。
とまあ、大げさに書いてますが、家にG(ゴキブリ)が出て僕がテンパってる間に妻がゴキジェットプロでやっつけてくれてめちゃめちゃカッコよかった、というお話でした。
ちなみに、ロンドンとかレストレード警部とかはシャーロックホームズが元ネタです。
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